小説「風車祭」

1994年の「文藝春秋」に連載され、第118回直木賞候補にもなりました。デビュー2作目となる本作は、作家である自覚を持って「書こう」と思って書かれた作品なのだそうです。前作に続き、栗原まもるにより漫画化されています。「One more Kiss」に連載され、単行本は全5巻が刊行されています。栗原は、前作「バガージマヌマナス」を物語を凝縮して全1巻に収めたことが心残りで、もう1度池上作品を漫画化したいと願っていたのだそうです。前作に引き続き、石垣島が舞台となっていて、島人特有のゆったりと流れる時間とユーモラスな登場人物たちが魅力的な物語です。

あらすじ

1996年、沖縄県・石垣島。フジおばぁは、翌年に97歳のお祝い「風車祭」を控えたいま、とても退屈していました。「何か刺激がほしい!」と企んだフジおばぁは、高校生の武志にあるいたずらを仕掛けます。武志はそのいたずらによって妖怪火を見てしまい、自分のマブイ(魂)を落としてしまいます。そればかりか、他の人には見えないモノまで見えるようになってしまったのです。武志が見た妖怪火の正体は、228年もの間マブイだけの身でこの世をさまよい続けている「ピシャーマ」でした。武志は儚げな雰囲気を持つ美しいピシャーマに一目惚れし、自分がマブイを落としているにも関わらず、彼女の願いを叶えようと奮闘します。ピシャーマがこんな姿にされた理由は、ニライ神・マユンガナシィによって、破壊に向かう島から生き残る人を選ぶという使命を負わされていたためでした。島に古くから伝わる信仰が薄れたことが原因で、島に洪水や血の海、地震、大津波など様々な災いがもたらされると預言されたのでした。たった一人、マブイだけの体で何が出来るのかと悩むピシャーマの前に、次々と災いが訪れ・・・。

登場人物

比嘉 武志(ひが たけし)

沖縄顔の高校生。バスケ部に入っています。物知りのトミおばぁを尊敬しています。妖怪火を目撃してマブイを落としてしまいますが、その時に出逢ったピシャーマに一目惚れし、ピシャーマを助けようと奮闘します。

ピシャーマ

前新川首里大屋子(マイアラカーシナゴーヤー)の娘。1768年の自身の婚礼の日、婿の家へ向かう途中、小用を足そうと花嫁行列を抜けたときに気を失い、気が付くと石になっていたのだそうです、数年後、明和の大津波によって石としての身体は砕け、以来盲目となり、マブイの身だけでさまよい続けています。ニライ神によって、破滅へ向かう島から生き残る人を選別すべく使者に選ばれました。「ピシャーマ」は「娘さん」という意味です。

ギーギー

6本足の不死身のブタの妖怪です。盲目のピシャーマと川で共に生活していて、洗濯をするのが日課になっています。武志の子を妊娠しますが流産してしまい、それが島に災いをもたらすきっかけになってしまいます。

仲村渠 フジ(なかんだかり ふじ)

1901年生まれの96歳の老婆。フジという名は「富士山=不死」に由来します。長寿に異様な執着心があり、「トミに小言を欠かさない」ことで健康が保てると豪語する人物。また、長寿のためには刺激が必要だと考えていて、退屈を嫌い、自分の長寿のためには他人が不幸になっても構わないと思っています。たとえ退屈であっても「トミが退屈にならないように」と屁理屈を述べて絶対に家事を手伝うことはしません。過去に34回マブイを落としたことがあり、その都度マブイ籠めの儀式をしてもらっています。ホールザーマイによると、神の庇護を受ける最高の人相をしており、「あと倍は生きそう」とのこと。玄祖母の実家がピシャーマの実家で、つまりフジもピシャーマの家の子孫になります。

仲村渠 トミ(なかんだかり トミ)

仲村渠家で、唯一まともな人間。口うるさい母・フジと出戻りの娘・ハツに毎日悩まされています。自身も出戻り。幼い頃から自分を慕ってくれる武志が心のオアシス。物知りで伝統的な行事などに詳しいのが特徴です。

玉城 睦子(たまき むつこ)

武志とは幼稚園からの幼なじみ。バスケ部のマネージャーを務めています。武志のことが好きで、何かと世話をしたがります。暴走する武志のマブイに翻弄されて自身もマブイを落としてしまいます。

玉城 郁子(たまき いくこ)

睦子の妹。変身モノのヒーローに憧れていて、残酷なおままごとが好きという変わった性格の持ち主。武志と一緒に妖怪火を目撃し、マブイを落としてしまいます。一度はマブイ籠めをしてもらったものの、もう一度ピシャーマに会いたいがためにマブイを落とします。

仲村渠 ハツ(なかんだかり ハツ)

トミの娘。熟年離婚し、出戻ってきました。フジと一緒で、他人の不幸を楽しむ性格。

美津子(みつこ)

ハツの娘でフジの曾孫。70歳以上限定のスナック「長寿」を営んでいます。チーチーマーチューが描いた絵を店に飾ったところ、大繁盛に・この店の常連になると長生きできるという噂まで発生し、瀕死の病人まで無理して来店するようになります。ところが、絵が盗まれて客足が減り、その影響か夫の会社も倒産寸前に追い込まれてしまいます。チーチーマーチューにフジの顔拓と交換でもう一度絵を描いてもらったところ、店が雑誌で紹介されて、前よりも盛況になりました。

赤嶺 里子(あかみね さとこ)

島のユタ。武志と郁子がマブイを落としていることに気づき、マブイ籠めの儀式をします。マブイの気配を匂いで感じ取ることができるため、落としたマブイを探させたら島一番の実力者といわれています。

チーチーマーチュー/ターチーマーチュー

謎の兄弟。昔は漁師でしたが、親戚に騙されて絶望し、酒に溺れた生活を送ります。チーチーマーチューは商売繁盛をもたらす海の絵を描き、弟のターチーマーチューは健康と長寿をもたらす舟を彫る能力があります。

ホールザーマイ

島内の神職の最高位です。その証として中山尚真王が授けたとされる金のかんざしを身につけています。島の有事には為す術もなく、仕方なくフジに助言を求めました。

感想

前作「バガージマヌマナス」に続いて、とても楽しい作品でした。石垣島を舞台に繰り広げられる、少年とマブイとブタの妖怪の恋がメインストーリーです。こう書くととんでもない話のように聞こえますが、作者の腕がいいのか読んでいるうちにそれが自然なこととして受け入れられるようになるのが、この物語の凄いところです。700ページを超える長編ですが、ページが減っていくのが淋しくて仕方がない、ずっとこの物語が続けば良いのにと願ってしまうほど、魅力的な世界です。登場人物みんなが個性的で、素敵です。特にブタの妖怪「ギーギー」は魅力的で、本当に大好きなキャラクターとなりました。ブタのために涙を流したのはこの物語が最初で最後だと思います。ページ数の多さに、手にする事を躊躇することが多いのが本当に残念でなりません。読み終わったあと、物語が終わったことに淋しさを感じることができる本なんてなかなかないです。大人から子供まで自信を持って勧められる一冊です。

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